さまざまなハラスメントがありますが、上司と新入社員との間のハラスメントで多いのはパワーハラスメントです。どのような行為がパワハラと受け止められるのでしょうか。
上司が部下に対し、上司という優越的な立場を利用して、拒否や抵抗ができない状況に追い込み、従うことを強要するような行為はパワーハラスメントと受け止められます。
また業務上必要な経験や知識を持っている者が、その人の協力なしには業務が円滑に行えないとわかっていながら同僚や部下に協力しない行為もパワハラと思われていまいます。また同僚や部下からの集団により、抵抗や拒絶が困難な行為もパワハラにあたります。
上司から部下への悪質な行為だけでなく、同僚や部下からの嫌がらせなどもパワハラに含まれることがあります。
社会通念上、明らかに業務上必要がないことを指示してやらせたり、業務の目的から大きく逸脱したことをやらせたりすることはパワハラと受け止められます。さらに業務の手段として不適切だったり、不必要な回数を要求したり、業務を遂行するのに明らかに無理な人数や期間などを設けるなど、一般的な常識として許容される範囲を超えていると、パワハラと受け止められます。
上司である立場を利用した嫌がらせや体罰、仕事の妨害や仲間はずれ、仕事を与えないなどの行為により、身体的・精神的に苦痛を感じることはパワハラになります。
結果的に能力が発揮できない、業務上支障が出る、職場に来ることができないなど、就業環境が害される言動をした場合が該当します。
個人によって感じ方は異なりますが、社会通念として見過ごせないレベルの言動であるかどうかが基準とされるため、常識的なレベルがどこにあるのかを理解しておく必要があります。
パワハラと指導の違いのポイントは大きく2つあります。
1つは、人格を否定するような発言をしていないかどうか。2つ目は指導方法が必要かつ適切であるかということです。
例えば繰り返し同じミスをする新入社員に対し「何度言ったらわかるんだ」と強めの口調で言ったとしても、パワハラにはあたりません。しかしこの後に「バカなのか」「お前は役に立たない」などと人格を貶めるような発言をしたり、社員みんなの前で長時間怒鳴ったりすると、パワハラと受け取られてしまいます。
以下に、指導とパワハラの違いをまとめました。
パワハラに該当 | 指導の範囲 |
殴打、蹴る、物を投げつける | 誤ってぶつかる |
バカ、能なしなど人格を否定する言動 皆の前で長時間の叱責 |
ミスや問題行動に対して強く注意する |
わざと仕事から外し長期間隔離する 集団で無視し職場で孤立させる |
新入社員の育成で短期集中研修などを個別に実施する |
業務と無関係の私的な雑用を強制する | 育成のため少し高いレベルの業務を任せる |
嫌がらせで仕事を与えない | 能力に応じて業務内容の量や質を軽減 |
職場外での継続的監視や私物の写真撮影 | 新入社員への配慮を目的とした家族への聞き取り |
パワーハラスメントを気にしすぎるあまり、指導ができないと悩む管理職の方もいますが、基本的には社会通念上いきすぎた言動に気をつければ、ハラスメントには該当しません。必要以上に萎縮することなく、適切な指導ができるように行きすぎた言葉や態度に気をつけましょう。
ただし気づかずに人格を否定するような言葉を発していたり、好き嫌いで人を見ていたり、自分の機嫌の良し悪しで接し方を変えていたりしていないか、今一度見直してみることも必要です。
新入社員は社会人としてもまだ未熟で、上司から見れば常識と思えるようなマナーでも身に付いていないことがあります。そのため失礼な言動やマナー違反、効率の悪い仕事ぶり、ミスが多いなど目に付くことも多いでしょう。
何度も同じミスをすると、イライラしたりつい叱責したりすることもありますが、ただ叱られたのでは新入社員は意味がわかない場合があります。
指導や叱責は適切であればパワハラにはあたらないので、叱るときには「何が悪いのか」「どこを改善すれば良いのか」をきちんと説明するようにしましょう。
指導や叱責は、あくまでも新入社員が成長するために行うことです。この目的意識を明確に持っていれば、適切な言動で、短時間に効率良く指導できるようになります。
新入社員への指導は具体的に行うことが大切です。「見て習え」のような考え方で、具体的なやり方を教えずに放置すれば、必要な指導をしていないと受け取られてしまいます。
新入社員は会社独自のルールなども知らない状態なので、「この資料はどこにこのように置く」などより具体的に指導しましょう。
また書類の作成などで不足な点があれば、どこに何が足りないのか、間違っているのはどこでどう直せば良いのかを具体的に示してください。先輩社員に指導するよう指示して、新入社員が成長できる環境を整えるなども良い方法です。
新入社員は仕事を覚えたてなので、仕事に時間がかかることは予想できます。新入社員にはできるだけ時間に余裕を持たせ、途中経過も報告させて指示すると良いでしょう。最後までチェックせずに提出されると、ミスや注意すべきことが多くなってしまい、かえって時間がかかる場合もあります。
また締め切りの日時を伝えておき、間に合いそうにない場合には報告するよう指示しておくと、前もって対策ができます。失敗を叱責することもなくなるため、お互いにストレスなく仕事ができるでしょう。
新入社員は新しい環境に慣れておらず、仕事だけでなく人間関係や会社のルールなど覚えることが山のようにあります。課題をいくつも抱えているのに、上司から一度にいくつもの指導をされると、どの課題からクリアすれば良いのかわからなくなります。
上司からすれば一度にたくさん目についてしまいますが、指導の際は1回にひとつずつを心がけましょう。
製造業A社の従業員が、工具の片づけや機器の電源を切るのをよく忘れるため、危険な行動を繰り返していることに対して注意し、反省文を書かせました。すると従業員は「常軌を逸した言動により人格権を侵害された」として民事上の損害賠償請求を提起しました。
判決は指導の目的、態様ともに裁量権の濫用は認められず、請求は却下されました。
上司や先輩から人格を否定する言動や、不同な差別的な扱いを受けていたと、元従業員のAさんが慰謝料等を請求しました。ところがAさんの勤務態度などに問題があったため、相当の指導を逸脱する効果があったとは認められず、上司や先輩からの業務命令は指導目的であり不当ではないとして不法行為の成立は否定されました。
パワハラの慰謝料の相場が50〜100万円といわれ、内容や悪質性を考慮して変動します。ただし事例のように原告側に問題があり、請求が却下されることもあります。
万が一新入社員にパワハラで訴えられたら、自分で解決しようとせず、会社へ報告しましょう。裁判には費用がかかり原告の訴えが通れば損害賠償金や慰謝料を支払う必要があります。
突然訴えられる可能性はどの会社にもあるので、裁判費用や賠償金をサポートする保険などで備えておきましょう。
TWO TYPES
ハラスメントは上司からのみではありません。最近では部下から上司へのハラスメント行為問題視されています。そのほか先輩から後輩へ、同僚同士、社員からアルバイトスタッフへなど、さまざまな関係性で起こり得ます。
社員全員が笑顔で働ける職場環境を実現するためには、社員全員で研修を受けて、ハラスメントに対する正しい知識を学ぶことがポイントです。
ハラスメント研修の実施方法は「eラーニング研修」と「対面・オンライン研修」の2種類。どのような研修を実施したいかに合わせて選びましょう。